小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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『キングコング』

いびつなPJの愛情 ★★★☆☆

キング・コング 通常版 [DVD]

キング・コング 通常版 [DVD]


 稀に見る傑作「ロード・オブ・ザ・リング」の監督でその愛らしいオタクな風貌まですっかり認知されたピーター・ジャクソン(PJ)監督の『キングコング』。「…なんで今さらキングコング??」と思ったし、キングコングの話自体があまり好きじゃないんで封切りでは見ず、「とりあえず見ておこうか」て感じでDVDレンタルして見ました。


 見始めて気づいた。な、長い…。3時間20分てどうなのよ。最初の1時間が主人公の女性のNYでの生活や当時のNY事情を詳細に描いているのはいいんだけど、…いったいいつコング探しに行くの〜? やっと2時間目入ったあたりでスカル島に出航。暑苦しいジャック・ブラック演じるイッちゃってる映画監督が無謀に島に乱入。そこからまたコングとは別にわらわら現れる原住民との戦いやら、ジュラシック・パーク?って感じの恐竜だの巨大虫だのヒルだのとに襲われ、うぎゃああとのたうちまわりつつ、やっとコングとナオミ・ワッツが出会う。


 この島での話も長い長い…。やたらに怖くてグロいシーンが多い。あれ半分くらいに編集してもなんら問題ないと思うんだけど…。それに、出航から一応人間関係なども描いていた船長とか船員さんが、ただただ死ぬ役要員になってるし、わらわらいた原住民はいつの間にかいなくなるし。伏線にもならず話が途切れてみんな途中でいなくなるだけなんで、なんのためにディテール描いたのか謎です。


 コングはかわいかったですけどね。でも両手縛られてたナオミ・ワッツをつかんでぶっちぎるところはドキッとしましたよ。あれ、普通腕がもぎれるでしょ。縄にかかる力と同じくらい腕が引っ張られるんだから。で、手につかんでジャングル走る様子、ナオミ・ワッツはぶんぶん振り回されてます。あれ、首、折れるでしょ……。


 と、リアルなこと考えるとあり得ないシーンばかりなんだけど、恐竜に追いかけられるシーンやら見ても、意図的に、いかにも古臭くて、もろ合成でしょってわかる映像にしてる。CGテクノロジーからしたら、もっとリアルにできるはずのところを、わざと昔の合成映画風に仕上げてます。てことは、まあ、上のような細かいツッコミは無駄なんだなって思いました。PJは、「キングコング」の初出版(33年版?)への並々ならぬ尊敬と愛情をもって、あれを自分の手でリメイクしたかったんじゃないかな。オープニングのタイトルバックはいかにも古風で古い古いモノクロ映画の始まり風。徹底してレトロな映像と演出を心がけたような気がします。だから腕や首が折れるだろーというシーンも知っててやってるんだと思いました。


 それにしてもやっぱり島でコングを捕まえるまでが長い長い。無駄に人間を描いてもその人たちそこだけで二度と出ないし。「ニューヨークシーンて、いったいいつ始まるんだろう…?」3時間目に突入した頃には心配になったほど。…が、あっけなく島からNYのシーンに飛んでしまいました。どうやって島の潮流を抜け出してコングを運んだのか全く謎ですが、原作でもそこらへんは曖昧なのでしょうか。


 で、ジャック・ブラック演じる映画監督、NYでコングを見世物にして一躍有名に。昔見た「キングコング」の話そのままですが。毎回ここらへんで私は腹が立ってくる。徹底して「コング視点」で描いているPJと同じ視点で、私もコングに感情移入してしまう。コングを見世物にしてるシアターに集まる人間たちの醜悪さよ…。ああ、人間てほんと嫌だわ…と思う。PJ自身もそういう感覚の持ち主なのか、またはキングコングへの愛着と愛情が溢れすぎていたのか、徹底してコング視点で描いている。


 コングがNYで暴れだして人間がぴゅんぴゅん飛ばされてもなんとも思わないし、どちらかというと「コングの怒り爆発だよ、見よ、愚かな人間たちよ!」てな気分になってしまいます。我ながら歪んでると思う。私もPJと同じくいびつな愛情をコングに持ってしまったようです。元々人間より動物のほうが好きだし…。生まれた時に仔犬と一緒に育って以来、以後ずっと猫やら犬やらを拾ってきては一緒に暮らしてきました。子供の頃は「名犬ラッシー」とか「野生のエルザ」とか「ジャングル大帝」とかに夢中でした。動物園は行くと悲しくなる…。本当なら自由にどこかで生きていられるのに…って。もしかしたら人間が嫌いなのかもしれません。


 だから、映画としては明らかに破綻してる(物語の構成とかひどい)長い長い映画(途中で飽きた人も多いんでは?)なのに、コングへの気持ちだけで入れ込んで見れた私…。コングが愛する彼女に出会えて、セントラル・パークの凍った池でふたりでスケート(?)するシーン(あれ、普通氷割れるでしょ…)とか、エンパイアステート・ビルに登って彼女を守るために死を覚悟するところなんて、涙ぼろぼろ…(端から見たらアホらしくみえただろうなあ、普通泣かないよね…)。でも、最後の最後まで、私はコングをNYに連れてきた人間やそれを見て喜んでいた人間たちを憎み、コングに一心に同情し続け、彼の運命に涙してたのでした。


 で、最後の最後でちょっといやーな気持ちになった。コングが死ぬのは知ってるからいいとして、コングが落ちていった後にやってきたエイドリアン・ブロディを見て、コングのために一瞬でも泣いたナオミ・ワッツが彼としっかりと抱き合うシーンがめちゃくちゃ違和感でした。私だったらコングが死んでしまったショックで、助けに来てくれたブロディを見ても心は晴れず抱きつく気にもならないと思う…。コングが死んだばかりで人間の彼氏と抱き合って終わりってのが…うーん。せめて泣き崩れるワッツをそっとブロディが抱きしめて慰めるとかだったら違和感なかったのになあ…。PJはナオミ・ワッツもまたコングを連れてきた人間側に描いてるような気がします。結局PJが愛情を注いだのはコングのみなのかも。


 と、ここまでコングに入れ込んでる私が変なんだとは思う…。ネットでのレビュー見ると「つまんねー」「バカバカしい」って感想が多かったし…。でも、実際映画を見てPJがどうしてもコングを映画化したかった気持ちに共感できました、共感というかほだされたというか。その突出したコングへの愛情のせいで、周りの人間たちを最初は細かく描写してたのに、いつのまにか放り投げられてたけど。最初の1時間くらいのナオミ・ワッツのNYでの生活なんて、結局どーでもよかったような気がするし…。カッコよかった船長さんなんて、結局ヒーローにさえならずに死んじゃうし、エイドリアン・ブロディなんて、一応真のヒーロー位置にいるのに影薄すぎ……。コングのキャラだけが最初から最後まで丁寧に描かれていた。


 映画としてはイマイチ。だけど、コングに思い切り感情移入できて、コングがかわいそうでかわいそうで泣けちゃうって人には見る価値ある……のかな? いや、逆につらくて見たくないって友達もいたけれど(その人も私と同類なのかも)。しかしすごいお金を注ぎ込んで、すごいオタク映画を作ってしまったのですね…。タランティーノとロドリゲスがお金をいっぱいもらって好きなように撮れ〜って言われて作ってしまったとんでも映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』みたいなもんでしょうか。でもコングは失敗作と思うけど、こっちは妙な具合にとんでも的傑作と思う。