小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

公式ブログからこちらに引っ越し。試用期間中です。

『レインメーカー』

★★★★☆

レインメーカー [DVD]

レインメーカー [DVD]


 昔見た映画、あまりに多く見たからなのか、単にもの覚えが悪いのか、画面が写った瞬間「あ、あの映画だ」ってわかるのに、何故かオチや驚く場面などを忘れて、何度も見ても同じところで同じ反応をするので、夫に「あんた何回も楽しめて得だね」と笑われる。確かに得なのかも。何度見た映画でも毎回新鮮な気持ちで驚いたりハッとしたり感動したり。泣く箇所さえ同じ。……単なる健忘症のような気もするけど。


 そんなわけで1997年制作の『レインメーカー』、先日WOWOWでやっていたので見ました。ジョン・グリシャム原作、フランシス・フォード・コッポラ監督、主演マット・デイモン。ごくまっとうな演出、破綻のない脚本。そつなくこなしてるという感じですが、いい映画です。とにかく一番いいのがキャスティング!どのキャラも、これほど見事にハマっているのは珍しい。ダニー・デヴィート、中年白髪になったミッキー・ローク、若き新人弁護士マット・デイモンと対峙する超ベテラン弁護士にジョン・ボイト、マットの恋人にクレア・デインズ。嫌なキャラがいない。特にミッキー・ロークの役どころはおいしいし、魅力的。昔見たというのに、後半あたりから保険会社の真相がわかるにつれ、かなり感情移入してみてました。


 原作を書いたジョン・グリシャムはデビューした当時からすっかり魅了されて読み漁ったけれど、『ペリカン文書』がかなりお気に入り(映画ではジュリア・ロバーツデンゼル・ワシントン主演)。『ザ・ファーム』もおもしろかった(映画ではトム・クルーズ主演)。彼のデビューと共に元弁護士が作家に転進てのがアメリカでは流行ったような気がします。実際現場にいた人間が書く小説はディテールがしっかりしてる。いいなあと思う。私が小説で音楽の現場を舞台に書くとしても、たぶんしがらみとか人間関係壊す可能性もあるので怖いなあと思う。ジョン・グリシャムは元同業者からどう思われたのか…。


 ジョン・グリシャムの小説は当然弁護士が出てきて、事件や法廷やたまにアクションも挿入されたりしますが。なんといっても好きなのは舞台が南部ってところ。主役は貧乏で正義感が強い若き弁護士。でもいわゆるサクセス・ストーリーではなく(だとしたらとてもつまらないと思う)、最後は物悲しく、プラグマティックというか現実に即した冷静で余韻が残る終結の仕方をするところも好き。しかし、出す本出す本ほとんど映画化される売れっ子作家はアメリカにいっぱいいるけれど、うらやましい。いいなあ…。才能とはすばらしいことだなあ。ああ、私にもくれー。


 ところで、この映画ほぼ10年前だから、みんな若い。マット・デイモンは『グッドウィル・ハンティング』(わたし的、心に残る永久の名作!)とほぼ同時期の頃。まだまだ青年ぽさを残したあどけない表情をしてます。後々『ボーン・アイデンティティ』(これは原作読んだ時から大好きだったんで映画化嬉しかったー)みたいなアクションスターになるなんて意外でした。『リプリー』みたいな、冴えない劣等感とどろどろした野心と邪悪さを含んだ役も合ってたけど。この人自身すごく好きな俳優ってわけじゃないのに、映画見るといいなあと思う。盟友(?)のベン・アフレックは出るたびに魅力なくしていったけど、デイモンは着実に役者を続けているように見えます。


 で、もうひとつ嬉しかったのはクレア・デインズ! 『ロミオとジュリエット』の時初めて見て、あまりのかわいらしさに惚れました。こんな可憐なかわいい子いるんだろうか!ってくらい。美人というのではないけれど、すごくかわいい。最後に見たのは『ターミネーター3』かな。ちょっと成長して感じがかなり変わったけれど、またスクリーンで見たい。


 あとミッキー・ローク! 若い頃は甘ったるい話し方で、自分が魅力的であることを過剰に意識してるところが鼻につく時もあり、かわいいらしくもあり。ハンサムではないけど魅力的でした。でも途中で低迷。ボクシングで日本に来て「猫パンチ」でKO勝ち(素人から見ても八百長もろ(笑))したのを見た以降、かなーり私の中でどうでもいい人になっちゃったのに、再び現れた時は、中年の味と一癖も二癖もあるような胡散臭いキャラやらせると光るんで「おお復活しそう」って思ったもんです。実際、『シン・シティ』とかよかった。『マイ・ボディーガード』にも出てたのだけど、顔が判別できないほど中年太りしてたので、ちょっと不安ですが。まだまだ活躍してほしい。


 なんか俳優さんの感想ばかりになっちゃったけれど。映画はいい映画だと思う。特に私が法廷ものが好きだからかもしれないけれど。じわじわと登場人物たちに感情移入させられて、保険会社には怒りが膨らみ、片やデイモンを支える周りの素朴な人たちがいて(中年になっても司法試験合格できないけどとても優秀な相棒ダニー・デヴィートとか、子供たちにネグレクトされた大家のおばあさんとか)、泣いたり和んだり。他にも猫だらけの壊れた車に入ったまま酒びたりの被害者のお父さんとか、いかにも南部女でタバコばっかり吸ってるお母さんとか、みんながそれぞれに苦しんで悲しんでいる様子がわかる細やかなキャラ作りが物語をリアルにしてると思う。だから最後は本当に泣けてくるんですよね。子供を失う親の気持ちを考えると胸がつまる。


 コッポラは『地獄の黙示録』以来誰もが認める巨匠だけど、個人的にはそれほど惹かれる監督じゃない。だけど、やっぱり映画作りはうまいですね。そつない演出で斬新なトライをしないところが物足りないけど。原作が「正義感と迷いと不安の中で自分の正しい道をみつけだす新人弁護士」が主人公だから、この映画にはぴったりと思う。


 最後のシーンとモノローグがすごく好き。彼の決断も非常に賢明というか聡明だと思う。とても清清しい気持ちにさせてくれる映画でした。