小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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アニメ 「君の名は。」


君の名は。」★★★★

映画館に行くのは夫と一緒。中学生から20代までは映画はひとりで見るものと思ってました。
そして最近はストリーミングがあるので、もっぱら家でHuluかNetflix
たまに映画を見るのは、夫が見たいから一緒に行くという程度。
私が好きなものは、ミステリー、サスペンス、法廷もの、刑事もの、歴史もの(特に中世ヨーロッパかイギリス)、ミリタリーもの、SFもの、そしてゾンビw、…趣味が女じゃない; 恋愛映画は最近どんどん興味をなくしています…。枯れちゃったかな…うう。でも「君に読む物語」みたいな話は好き。大泣きして見ました。あの映画はすばらしい。

で、先週、また夫が映画館行きたいというので、何見るの?と聞いたら、アニメでタイトルは「君の名は」という映画だという。

私 「え? 春樹さん、真知子さんのアレ?」
夫  「なにそれ?」
私 「知らないの!? 戦後流行ったラジオドラマで、のちに映画化された、恋するふたりがすれ違う話だよ」
夫 「タイトルは聞いたことがある。でもアニメのはそれとは全く関係ない。そんな有名なの?」
私  「有名だよ! 戦後の日本人が夢中になった話。ある男女が空襲の中、数寄屋橋で出会う。ふたりは惹かれあうも互いの名前を聞くこともできず、空襲の混乱で別れ別れ。そして終戦。敗戦から立ち直ろうとする日本社会を背景にして、惹かれあう二人が出会いそうで出会えない、何度も何度もすれ違うんだよ、その度に視聴者はやきもき。なんといっても岸恵子が美しかった。戦後の日本を飾ったとっても有名な映画だけど」

夫 「……あんたの世代だから、そう思うんでそ」(注:夫は一世代下です;)
私 「私だって同時期に見てないわ! 映画が好きならおのずと知る映画! 見て無くてもあらすじ知ってるって」
夫 「俺、知らん」 (…そうか、今の若い人ーー40代以下は「君の名は」って知らないんだ……軽く衝撃)
私 「じゃあ古い邦画では何が好き? 黒澤?」
夫  「…見たことない」
私  「えええええー;; 世界が誇る黒澤の映画、見てー」

夫 「で、アニメ、一緒に見に行く?」
私 「…うーん、面倒だから、あんたひとりで見とき」
夫 「え………;; 俺、男ひとりで映画館行くのつらい…。ひとりで見る映画じゃない」

などというので、ぐぐってみると、タイトルは「君の名は。」という、最後に読点がついていました。
「君の名は」との差別化のためでしょうが、なんとなくあざとさを感じてしまいました。(インタビューによると監督さんはこの映画の存在は知っていたけれど、見たことはない、そうですが) 真知子さんの「君の名は」は、内容の出来はともかく、ボロボロになった戦後の日本で日本人を楽しませた、象徴的映画のひとつ。それと同じタイトルを使うのかあ、勇気あるなあ…と思うのは、夫のいうように、私が年寄りだからでしょう。でも、私だって同時代に見たわけでもなく、のちに映画マニアになって知っただけ。

でも、元祖「君の名は」の出会えそうで出会えないふたりの恋物語は古典的な要素で、嫌いではないです。
洋画にも「めぐり会い」という古い映画があって、それもまた、愛し合う男女が、すれ違ってばっかりでなかなか会えないという話でした。
のちにトムハンクスとメグ・ライアンが主演した洋画でも、そういうテーマだったような…。
手前味噌ですが、自分が、TM NETWORKに昔書いた歌詞、そのままのテーマです。

♪出会えない ふたりのrelation
街角で今すれ違ってゆく
捜してる お互いのaffection
めぐり会えたら何かが変わるのに

子供の頃から空想というか妄想が好きだった私はSFものも好きでした。恋愛に関しては非常に奥手で本を読むだけで妄想を膨らませていた頭でっかち。でも、純愛に惹かれていました。今思うと笑うのですが。
もし、自分にとって最高の相性の人、または運命の人と呼んでもいいですが、そういう、会ったら最高の相手になれる人が、江戸時代とか、大正時代とかの人だったら? 日本じゃなくても、200年前のスコットランド人だったら?(洋ドラの「アウトランダー」の例)、とか、そんなことを思って、ひとりで哀しい気持ちになっていた、暇な中学生でありました。でも、「出会えない大切な人」というテーマは大人になっても残っていたらしく、上のようなテーマの歌詞を、他にもいくつか書いています。

昭和の「君の名は」がそのまんま直球なら、アニメ「君の名は。」は、ある意味、私の子供の頃の妄想に近い、「すれ違い要素」は入っていたようです。

アニメをあまり映画館で見ることがない、そして、あまり監督さんのことも知らない。という不勉強のために、タイトルとアニメであることで、あまり乗り気ではありませんでした。でも夫の、男一人で行くのはつらい…という言葉で付き合いで行きました。

………そして、映画館で、後半あたりで、夫より感動にあふれて泣いていた私です;
明かりがついた時、涙を拭いていた私を見る夫のドヤ顔。 自分が選んだ映画が良いものだと何故か勝ち誇る。、そのドヤ顔にむかつくのですが、同時に、この人と出会えたことに感謝しました。そういう気持ちにさせてくれる映画です。




           ★★★★★  以下  ネタバレ注意  ★★★★★


特に書くことはないです。ただただ美しいし、ファンタシー要素が自然に入ってきているし。すばらしい映画だと思いました。

「転校生」のような男女が入れ替わる始まり。でもちょっとだけ違うのは、相手がどこの誰だかわからないこと。入れ替わるたびに、女子の胸をモミモミするのが笑えて好きw

でもそうやって入れ替わりながら、環境の違いや毎日の風景を知ることでどんどん相手が好きになる。
果たしてふたりは生身のまま出会えるのだろうか…。見ているものはそういう気持ちが一緒に大きくなる。

しかしこの入れ替わり、素直に話が行くわけもなく。時間のズレはあるだろうなあ、悲劇が待っているんだろうなあと推測していましたが、互いにスマホを持っているので、時間のズレがあったとしても10年以上はないので、少し安心して見られました。
これが、100年時代が違っていたら悲惨すぎだし…。

時間軸や災害から救うシナリオなので、小さな穴はつっこめばあるのはありますが、そんなのはファンタシーなので気になりません。

山の上での「黄昏時」の邂逅のはかない美しさ(このシーンが一番感動的で一番泣きました)と、彗星が割れる瞬間の作画の美しさだけでも見る価値がある。
そして薄れてしまう記憶。消えていくスマホの文字。会いたい人がいるのに、とっても好きな人がいるはずなのに、記憶から消えていく。
その設定がうまいなと思いました。記憶がはっきり残っていたら美しくない。お互いを求める気持ちだけが心に残る。

そして事件が終わり、主人公の男の子は日常に戻って、なんとなく誰かを探しているような気持ちで毎日を過ごす風景。
変わらない日常。職探しで四苦八苦しながらいつの間にか8年も経っていく。記憶はすっかりなくなっているのに、心のどこかに、ざわつくような感覚だけが残っている。会いたい人がいる。はっきりと理解していないけれど、誰かを求めて探している感覚。
そんな感覚を懐きながら、変わらない日常を過ごす彼。
そこがまた美しいです。私の好きなテーマです。

出会えないまま終わっても、泣きながら十分満足できたと思いますが、この映画がより好きになれたのは、最後にハッピーエンドを用意したこと。あの出会いがなくても、話としてはもう十分美しくすばらしい。だけど、ハッピーエンドがあるからこそ、映画館を出るときは清々しい気持ちになれる。

あの村のほぼ全員が避難できたのは謎ですけどね。彗星が割れる瞬間が目視できる近さだったら、地上に落ちるまでに数秒もなかったはず。どうやって避難できたのかなとは思いますが、それでも、そのエンディングにしてくれて嬉しい。

せつないけれども、最後は気持ちよく席を立てた。
そして、すでに18年近く一緒にいる夫と帰り道、しみじみとよかったと思える。
……夫がひとりで行くのを嫌がった意味がわかりました。

出会いは不思議なもの。それで実際に人生の岐路が決まることがある。
まだ出会えない誰かに想いを馳せるのもまたロマンチック。

久しく恋愛映画を見ていなくて、ゾンビ映画や刑事ドラマばっかり見ていた私の心が一瞬洗われたような気持ちです。

…でも、普段はあまり、恋愛映画には食指が伸びない。現実的なつらい話も避けてしまう。リアルな人生は、決して甘くもなくロマンチックでもなく、責任感がいつも付きまとう。年取れば年取るほどその責任の重さがこたえます。
そういう時期なので、よけい現実から遠い、パズル的だったり、ただのエンタテイメントを求める傾向にあります。

たまには少女のような気持ちに戻るのも悪くはないかも。
でも、ロメロ監督のゾンビのほうが、現実から逃避して何も考えずに楽しめる…と思う私は、最近現実に疲れているようです;

とにかく、美しい物語をありがとう、という気分です。



追記:大満足してはいますが、やはり年齢的にか、タイトルだけは気になります。今時の高校生(最後のシーンは社会人になってますが)が、口語で「君の名は?」っていきなり聞くかな? 最後のシーンがアレだからこそ、このタイトルしかなかったというインタビューを読んでも、イマイチ納得できないままの私です。「あの…名前は?」とか「名前、教えてくれる?」とかならわかるんだけど、最初にかける問いかけが「君の名は?」って時代がかった言い方かと…。

あまりこれにこだわるのも失礼ですが…。映画自体があまりにすばらしいので、あのタイトルじゃなくてもいいような気がしてしまうのです…。昭和の映画か?と思ってしまう年代のものにとっては違和感が残ります。
とはいえ、映画は本当にすばらしく、練られた脚本にも脱帽だし、作画の美しさは文句ないし。…単なる年寄りのこだわりです; すみませぬ。