小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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『きみに読む物語』 

いつくしみ ★★★★☆

 何気なく借りてきた地味な映画。評判がいいらしいしタイトルに惹かれました。で、見始めた途端に出てきたジーナ・ローランズ見て「これ、ケーブルTVで見たやつじゃん!」とびっくり。


 よくケーブルTVの映画チャンネル(WOWOWかMoviePlus)をつけっぱなしにしてるんですが、物語の最後のあたりからつい見始めてしまうことが多々あり。夫から「安い涙」と蔑まれるほど、ちょっとしたシーンでも琴線に触れるとぽろぽろ泣いてしまったりします。夫呆れ顔「なんでいきなり見たシーンに感情移入できる?」と謎らしい。なんかあるんでしょうね。いかにも泣かせの場面には反応しなかったりするし。この映画は最後のシーンだけで琴線に触れました。見たのは最後の20分くらい。それでもシチュエーションはすぐにわかるし、最後のシーンがあまりに温かくて美しいので泣いてしまいました。でもタイトルわからないまま(そういうちょっとだけ見た映画もたくさんありすぎ)。


 やっと全貌が見れましたよ。うーん、やっぱりいい映画です。物語の主人公たち(老齢のふたり)が10代だった頃の物語が挿入されるのですが、若いふたりの仔犬がじゃれあうような愛らしい恋がとても素敵です。ノアという貧しい青年がアリーというめちゃくちゃ明るくて感情豊かで裕福な家のお嬢さんに一瞬に恋をする。それからふたりは毎日毎日夏を分け合い愛し合うようになって。でも身分の差から離れ離れになり、間に戦争が入り…って感じで、長い間成就されないままになっていた恋。それが…。


 あまりに全貌を書くのは気が引けるので、このくらいにしときます。最初の恋をまっとうできる人はとても少ない。だけど、本当に愛し合っていつくしみあいつつ一緒に年取るカップルは多い。街で仲むつまじく手を繋いでいる年老いたカップルを見ると、つい微笑んでしまいます。電車の中とか街角でじゃれあう幼いカップル見ても微笑んでしまうけど。お互いだけを見詰め合って、笑い合って、愛情を分かち合う姿を見るとほのぼのとします。


 みんないつかは年老いて、そしてどちらかが病に侵されたり、他の不幸が訪れる時が来るかもしれないけれど、最後の最後まで分かち合えたらいいなあと思います。1994年に日本の女優、音羽信子が死んだ時、長年の仕事の相方でもあり夫でもあった新藤兼人監督のエッセイを何かの雑誌で読んだ時の気持ちを思い出しました。


 数匹の猫に囲まれて静かに縁側に座る新藤兼人が語る音羽信子。すばらしい女優さんなのは当然だけど、新藤兼人は最後まで妻である彼女を「音羽さん」と呼んでいたそうな。「女優さんは家事などしなくていい。女優さんは女優であればいい」とも言ってましたっけ。長年一緒に仕事をしてきたパートナーとしての敬意なのでしょう。


 そして、私の心を捉えた一言は、音羽信子の死に関しての言葉。「僕たちはすべてを語り尽くした。悔いは全くない」。……ああ、こんな言葉、私には絶対に吐けない。愛する人を失う時、そう思えるほどに時間を共にして、語り尽くすほどに語り合えるのかどうか…。でも、それに近いところには行きたいものだと思いましたっけ。


 若い恋の愛らしさと、年老いた同士の労わり合う落ち着いた愛、両方をたっぷり味わい、最後に、「ああ、幸せなふたりのままでいてよかった」と思わせてくれる映画です。ふと「私も夫と共に年老いて静かにふたりで最後を迎えたいなあ…」なんて思いました。大事にしなくてはと…。


 そして、そういうふうにできなかった多くのカップル(妻や夫が病死したり、離婚したり、いろいろな事情があるでしょう)のことも想像します。私の母親とか…(46歳で夫を亡くして以来ひとり)、同級生の男友達とか(奥さんを病でなくしたばかり)。彼の言葉もまた心に残っています。奥さんをなくしても友達の前では以前のままバカな冗談を連発するオヤジになってますが、喧嘩してた同級生の夫婦に言ったそうな。「喧嘩する相手がいるってのは幸せなんだよな…」と。確かに…。彼が唯一悲しくなる時は、外に出た時に仲睦まじい老夫婦を見る時だそう。「自分と妻は二度とああいうふうになれないんだなあ」としみじみ思って寂しくなると言う。まだまだ若いしおもしろくてハンサムな彼なので、また時間を分け合える人と出会えるかもしれないですけど。そうであったら私も嬉しい。


 …と、なんだか年寄りになった時のことばかり書いてますが。映画は決して高齢の人たち向けというわけではなく、若くて恋の真っ最中の恋人たちが見てこそ心に来るんじゃないかなって思います。


 しかし、ジーナ・ローランズは年老いてもいろいろな映画に出てますねー。このところよく見ます。昔はとってもきれいでカッコいい女優さんでした(今は風格がすばらしい)。彼女といい、シャーリー・マックレーンといい、そして故ジャック・レモンといい、死ぬ直前まで現役で、いい映画にたくさん出ている俳優さんたちって幸せですね。死ぬまで仕事できてうらやましい。


 ついでにジャック・レモンが晩年に出ていた『12人の怒れる男』は私の中でベスト10に入る映画。リメイクだけど、ヘンリー・フォンダ主演のオリジナルよりいい出来です。これもお勧め。…と書いてアマゾンで調べたら、ヘンリー・フォンダ版しかDVDが出てない!? ……そんなあ。あんな傑作なのに……。がっかりです。あったら私、買いたいのに…。しょぼん。