小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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『アイランド』

★★☆☆☆

アイランド 特別版 [DVD]

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 【ネタバレしてます】


 とりあえずユアン・マクレガーが好きじゃない…。『トレイン・スポッティング』が大嫌いだったから(麻薬に溺れて犯罪犯すわ、汚い部屋でみんなでラリって赤ちゃんほったらかして死なすわ、見てるだけで不快。麻薬問題が深刻に取り上げられて改善に向かう以前のアイルランドは実際ああいう感じだったみたいですが。社会問題より映画は映像がアートぽかったからそこをファッショナブルなものとして巷ではウケてたような様子にも反発感じました)、引きずってるのかも。まあ今はオビワンと言ったほうが通りがいいのかな。


 何故かこの映画は予告編にも出会ったこともなく、全くなんの予備知識もなく見たんですが、それでかなり助かったかも。どうも封切り前の予告編では思い切りネタバラししてたらしいですね。「クローンの話」って。そんな予告編どうして作るのー??冒頭からわかってたらおもしろくもなんともない。まあクローンネタだとわかっても今更感はぬぐえない設定ですが。超リッチなクライアントが自分の保険用に自分のクローンを作っておいて、病気や怪我をした時に臓器を交換するためにクローンたちを飼っておく。臓器は使わないとダメになるので、クローンたちにもそこそこの社会性を持たせて、リクリエーションも与えて管理している。ありがちですよね…。


 スタートレック風なスーツやら、コードネーム、無機質な建物、「1984」みたいな管理社会。トイレに行けば尿をその場でコンピュータがチェックして健康状態を教えてくれたり。…なんかどれもこれも、昔のSFにこういうのなかったっけ?って感じがしてしまうレトロ感があった。そのレトロ感は悪くないのですが、序盤はとても退屈。


 やっとおもしろくなってきたのは脱出してから外の世界で思い切り違う映画になっていくあたり。砂漠に出て動く蛇を「なにこれ?生きてる」とものめずらしげに見るクローン・カップル。バーに行くと、バーテンダーがしゃべる慣用句がさっぱり通じない。なにしろ生まれてまだ3年そこらのクローンなわけで、知識は15歳レベルらしい。「ストレートで強いのいくかい? (Straight Uo?)」と酒を勧められて、キョロキョロと上を眺めるスカーレット・ヨハンソンとか、「あいつは(トイレで)糞してるよ(He is making a dump)」が全く意味わからず、「ふうん、ゴミ作ってるんだ」ってわからないまま繰り返すユアンの会話とか、笑えました。


 マイケル・ベイ監督は俳優を酷使する監督ですが、台詞とかはアドリブはウェルカムなタイプらしく、スティーブ・ブシェミの台詞は彼本人がその場で考えたものじゃないかな?て思うくらい、彼がしゃべるところだけ抜群に台詞がいいし、笑えるし、彼が出てくるだけで映画が締まる。さすがです。ユアンが「神って何?」と聞くと、「あー、困った時とかつらいときとか、こうなってほしいって願ったりするだろ?その願いを無視するヤツのことさ」っていうプシェミの答え、好き(笑)


 良かったところは外に出てからのカーチェイスでしょうか。テンポもいいし迫力あるし。(近未来都市のデザインはやっぱりなんか古臭ーいSFテイストでしょぼかった。今風なサイバーパンクな感じじゃないのが逆によかったのかもしれないけど)。見所はカーチェイススカーレット・ヨハンソンの美しさと、スティーブ・ブシェミくらいか。あとショーン・ビーン…(彼は最近近未来ものでよく見るような気がする。LotRのボロミアより『リベリオン』(大好き!)のイメージが強い)。あと『グラディエイター』で主人公の友達になる奴隷をやってた黒人俳優さん(名前知らない)が、カッコよかったです。以前よりマッチョな感じになっていた。


 でも……たぶん私はマイケル・ベイ監督は好きじゃないかも。メイキングで俳優さんたちの監督評聞くと、なーんとなく現場で無茶苦茶俳優をこきつかってそうで、ショーン・ビーンなんかは「He is pushy, but a good director」とか、一応誉めてるけどその強引さがあまり好きじゃなかった雰囲気バリバリ。監督、みんなに嫌がられてそうな気もした(笑)

 で、映画はすんごくつまんないってわけじゃないんだけど…。なんか、ふうん…て感じで終わってしまう。『ブレード・ランナー』で描かれたようなレプリカント(アンドロイド)の苦悩とか、この映画のクローンたちには一切感じられない。最後もみんなを助け出しに行くのはいいんだけど、セキュリティ甘すぎですんごく簡単に解放できちゃうし。なんだかなあって感じで終わりました。


 それにしてもあのクローンたちは、社会に放たれて市民権を得て人間として受け入れてもらえるのでしょうか。DNAだけじゃなくて指紋や角膜や静脈も同じクライアントたちの生活を脅かしそう。犯罪とかされると困るかも。…って、真面目にシミュレーションするほどの話じゃないですね…。現実のクローンは見た目が一緒にならないみたいだし(クローン猫は細胞ドナー猫とは違う毛色みたいだし)。


 クローンというと羊のドリーを思い出します。結局元細胞の年齢と同じに再生されて寿命が短く死んでいってしまったけれど。なんとなく、ドリーのことを考えるとしんみりしてしまう…。人間に作られた命だからか、短い生涯が不憫だなって思う…。でも、実際に今、心から愛する人やペットが死んで、クローン製造が可能な社会だったとしたら、私もひょっとしたらクローン技術を肯定するのかもしれない…と、ふと思ったり…(なんか『ペット・セメタリー』みたいだ…)。倫理観というのは、医学や科学の進歩によってどんどん変わっていく。結局人間のエゴで世界は成り立ってるのですね。