小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

公式ブログからこちらに引っ越し。試用期間中です。

『イル・マーレ』

★★☆☆☆

 【思い切りネタバレしてます】


 土曜日に映画館で見た映画のもうひとつ。キアヌ・リーブスサンドラ・ブロック出演。同名の韓国映画のリメイクだというのは見た後で知りました。WOWOWでも宣伝されてたので、設定は見る前からわかってたせいか、展開に特に驚きなし。


 サンドラ・ブロックは好きな女優さんです。キアヌ・リーブスも悪くない。湖に建つガラス張りの家の郵便受けを通して、2年前にそこに住んでいるキアヌと、現在その家を出たばかりのサンドラが文通を始める。その文通を通して彼らは互いに惹かれあっていく、というタイムスリップもので恋愛もの。


 私はかなり涙腺ゆるいほうなんですが、全く心が動きませんでした。わずかに、最後の最後でサンドラが郵便受けに手紙を入れて、その前で崩れるように座り込んで祈る場面でぐっと来たけれど…。泣けなかった。入り込めなかった。終わったら隣の夫がぐしゅぐしゅ泣いていてびっくり。「…???」特に映画館の他の観客でそこまで泣いてる人もいないようなのに…。どうした夫。


 いつもは私が映画みつつ号泣して夫が呆れるパターンなのに…。やっと泣く私を見る夫の気持ちがわかった。夫、この映画に動かされたというより、午前中に他の映画見て密かに号泣していたらしい。それで、そのまま涙腺弱い状態でこの映画見たから、雰囲気で泣いてしまったらしい。


 なんで泣けなかったかなあ。なんで私、入り込めなかったんだろう…と考えると、やっぱり、序盤に唐突に出てくる交通事故のシーンがダメだったみたいです。サンドラが母と昼食を取っていた建物の前で交通事故があり、医者であるサンドラは駆け寄って介抱するも男性死亡。それまで病院のシーンもさらっとしか出てこないし、医者として人命を助けられない苦悩とかが特にクローズアップされたわけでもないので、この交通事故は明らかに伏線と誰でも思うでしょう。


 なかなか出会えないふたりがいて、交通事故ですよ。死んだのどう考えたってキアヌ。彼が2年後に彼女に会おうとしても会えないのは当然。「なんだ…最後、なに?相手の男性が死んでることをサンドラが知って、それも目の前で交通事故にあって自分が介抱した人が彼だってわかるわけ?うわー、残酷。嫌な設定だなあ……。


 という思いがそのシーンで頭の中を支配した途端、もう私の心は映画からすっかり距離を持ってしまった。ひいて見ている自分がいた。相手が死んでるって序盤からわかるのって、どうなんだろー。ああ、悲劇が待ってるのねーって思いながら見てるから、ちっともロマンチックな気持ちになれず。そういうエンディングだったら見たくないなあとしか思わない。もう少し、あんな露骨に「伏線ですよー」ってわかってオチがバレバレにならないように、彼の死と遭遇していたことを表現できなかったかなあ。たとえば病院の中で彼女が緊急診療をしてて、たくさんの人が死んでいく。その中に彼がいたとか…。


 まあファンタジー設定だから、リアリティ求めてもしょうがないんだけど。突然、2年のタイムラグを超えて郵便受けで文通が始められても、ふたりともそれに関してわりと深く疑問を抱かずに受け入れる。そこらへんも、すんなり設定世界に入っていけなかった原因かも。まあ、本当のオチ言っちゃうと、サンドラが彼が死ぬ直前に警告できるように湖の家に行って郵便受けに手紙を入れて、それで過去が変わって、生きている彼が目の前に現れるんですけどね…。結局彼は4年も彼女を待ったことになる。なんという純愛。


 これ見ても、えーと…なんかすんごいパラドックスじゃないのかなーとか、無粋なこと考えてしまう私。彼の死を知るのは彼の死が発端でそれに出会ったサンドラが手紙の中で「今日どこそこでランチしてたら交通事故にあって」ってのを書いて、それを元にその日サンドラを探しにいって彼は事故に会う。


 夫、「いいんだよ!あの手紙を入れた瞬間に、彼女はパラレルワールドに突入してるんだよ。あの瞬間に過去も変化してるのっ」と、冷めている私に苛立ちつつ説明。…まあそうだけど。パラレル世界のひとつに移動したってことですね。『キング・コング』でぼろぼろ泣いて、この映画で泣けない私って………。「あんた、変」とか夫に言われた…。まあね。


 でもでも。いかにも悲劇が待ち受けてるのわかると冷めるんだけどな…。いかにも泣かせってのは私ダメ…。『ギルバート・グレイブ』とか『グッド・ウィル・ハンティング』『フィッシャー・キング』とかでは号泣してますよー。『イル・マーレ』はアイディアとしてはすばらしいんだけど、なんというか語り口が最初から「これはファンタジー設定だから、深く考えずに見てね?ポイントは愛だから、ね?」って言ってるような、なんとなく都合いい展開に泣けないのです…。まあ私にとって必ずしも泣いた映画=いい映画ではないですが。