小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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 『プルーフ・オブ・ライフ』

★★☆☆☆

プルーフ・オブ・ライフ 特別版 [DVD]

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 【ネタバレあり】


 一時期恋人同士だったメグ・ライアンラッセル・クロウ共演のロマンチック・サスペンス。2000年の作品。なんとなく通り過ぎていたのだけど、ラッセル・クロウを見たくて借りてきました。海外に進出する企業向けの保険会社が組織するK&Rというビジネスがあることを初めて知りました。Kidnap & Ransom(誘拐と身代金)の名前そのまま、海外で誘拐された社員や技術者などを取り戻すために、誘拐犯と交渉をするのが仕事。交渉だけではなく身代金と人質の交換まできっちりこなすので、メンバーは元軍隊とか警察とかの人が多いらしい。


 そのK&Rの交渉人がラッセル・クロウで、南米の架空の国でダム工事をしていた技術者が誘拐され、その妻、メグ・ライアンのところに現れるのだけれど、誘拐直前に会社が倒産していて保険会社は手を引いてしまう。ラッセル・クロウは交渉人として働くわけにいかず、一旦引き上げるも、メグ・ライアンに惹かれたためか正義感のためか、舞い戻ってきて夫救出のために立ち上がるというようなお話。


 実際は90日くらいかかって救出してるんだけど、映画を見てるとあまりそういう時間の流れを感じないし、その間気が狂いそうな気持ちで夫を思う妻という描写があまり描かれていないせいか、なんとなく緊張感なし。そんなに時間かけてたの?って思うほど。結局技術者やその他の人質を拉致している反政府ゲリラとの交渉が不可になって、最後は交渉人仲間たちがアジトに侵入して命がけで救出に向かうのだけど…。最後まで山場がありませんでした。なんでこんなにおもしろくないんだろう…。ラッセル・クロウも悪くないし、メグ・ライアンの演技もうまい。…脚本の問題なのかな。


 で、突入する直前にラッセル・クロウが無言でメグにキス。ずっと寡黙に夫の救出のために尽力して今まさに命賭けてアジトに向かう時にそんなキスされたら…………それも相手がラッセル・クロウだったら、もうダメです(何が)。メグ・ライアンじゃなくたって、一発で惚れます。はい。寡黙な男が本当に似合う。ラッセル・クロウ。『LAコンフィデンシャル』では私の理想の男だったし、『グラディエイター』もそう。寡黙だけれど愛するもののためには命を捨てて守ってくれる。絵に描いたようなタフガイなんだけど、それほど嫌味にも見えないしバカぽくも見えないのは、ラッセル・クロウの弱気な犬のようなまなざしと演技力のお陰だなあと思ったりします。『シンデレラ・マン』ではぼろ泣きですよ。『マスター・アンド・コマンダー』では男だけの世界でめちゃくちゃ貫禄見せてくれて、ああ、いい俳優だなあ。年取っても楽しみだなあと思わせてくれる。


 ということで、ラッセル・クロウが好きな人には楽しめるけれど、映画としては……?という感じでありました。私生活ではメグ・ライアンはこれでラッセルと恋に落ち、長年連れ添った夫、デニス・クエイドと別れてしまうのだけど、結局うまく行かずにラッセルはオーストラリアに帰って地元の元ガールフレンドと結婚してしまう。オーストラリア人にとってはハリウッドは馴染まないところなんだろうなと思ったり。それと、ラッセル・クロウ自身もたまに暴れて問題起こしたりするので、難しいところもある人なんでしょう。でも、すべてが好き!顔も身体も声も演技も!


 最後、救出した夫に「ちょっと待っててね」と言いながら、メグ・ライアンラッセル・クロウに近づくシーン。見詰め合ってるふたりは確かに恋してる者同士のそれです。それを遠くからみつめる夫。涙目で何か言おうとするメグに、ラッセルは「このまま旦那と空港に行って、この国から出るんだ」と言う。……んー??この風景って…なんか既視感がある??? と妙な気分になった私。で、思い出しました。この風景はまさに『カサブランカ』のラストシーンですよっ! 台詞までほぼ同じ。なるほどそうか、それやりたかったんだーと妙に納得。


 『カサブランカ』での寡黙なタフガイ、ハンフリー・ボガードはカッコよかった…。彼は何度も忘れようとした愛する女、イングリット・バーグマンと夫を救い、心を隠したまま空港で見送るのですが、そのシーンは映画見てない人でも知ってる有名なシーン。互いに気持ちを抑えて、目と目だけで別れを交わす…。和訳で有名な「君のひとみに乾杯」って言うシーンです(実際の台詞はそんなこと全く言ってないんだけど)。子供の頃は「夫捨ててボガードのところに行けばいいのに…」なんて思ってましたが、あそこで恋を諦め、愛する相手の幸福を願いつつ見送るのが大人なのですね…。ストイックさが美しいのですね。ちゃらちゃら不倫とかしちゃう男と女じゃね…。安くなるだけ。


 ハンフリー・ボガードは永遠のタフガイの象徴なんですね。私はラッセル・クロウのほうが断然好きですが。この映画は『カサブランカ』の足元にも及ばない(失礼)。ああ、でもメグ・ライアンもとても好きな女優さんなので、目が嬉しいってだけでも見た甲斐はあったかな。あとショーン・ペン初監督作品の『インディアン・ランナー』で初めて見て以来好きな俳優さんデヴィッド・モスがメグの夫役でした。でもこの映画ではイマイチぱっとしない…。あの人は静かで堅実な役をやらせると似合うけど、今回はなんか中途半端で拉致された場所でも感情的に動くだけで知的な感じがしない。素材的におもしろくなりそうな話なのに凡作になってしまったのが残念。