小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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『ブラック・ダリア』

★★☆☆☆

ブラック・ダリア コレクターズ・エディション 2枚組 [DVD]

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ブラック・ダリア (文春文庫)

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 私にとって大傑作『LAコンフィデンシャル』の原作者ジェイムズ・エルロイの作品が原作で、監督はブライアン・デ・パルマ。実際にあった女性バラバラ殺人事件をからませての話。これはもう即効で見に行かなくては!! と思っていたわりに、同時に見た『カポーティ』のすばらしさに感動して、この映画のことを書くのを忘れてました……。


 相変わらず映像はデ・パルマらしさを発揮してます。『スネーク・アイズ』の冒頭での驚異の長廻しシーンほどの見所はなかったけれど、話はこっちのほうが楽しかったし、フィルム・ノワールの雰囲気、LAの1940年代当時の雰囲気の醸し出し方もすばらしいです。『スネーク・アイズ』はデ・パルマ作品の中でも私にとっては一番つまらない出来だったので少しがっかりしてました。なんというかR.アルトマンの中期みたいに「俺ってこんな映像も撮れちゃうんだぜー」みたいな鼻持ちならない香りがちょっとし始めてた。でも今回は時代設定と原作から、名作『アンタッチャブル』みたいになるかなーとかなり期待してました。で…。


 んー。んーー。原作はおもしろそうだと思うんだけど、映画だとあまりに話を詰め込みすぎかもしれないです。3つくらいの事件が同時進行し絡み合い、最後に大団円を迎えるところは、いかにもいかにも懐かしい探偵小説の運び方だし、残酷な話の間に女と男の絡みが入って、衣装もセットも豪華でとてもいい感じなのに…。何故か、それほど引き込まれないし、どこかつまらない…。私はデ・パルマ好きなので、それでも楽しかったですけど。


 最初の事件(主人公バッキーがリーと組んで張り込んで銃撃戦になる)で、思い切りオチが見えてしまう…。主人公の相方が絡んだ殺人現場では、犯人がシルエットでまるわかりだし…。まあオチが見えても演出がおもしろくて俳優さんに味があれば、私は全然問題なく話にのめりこめるほうなんですが…。


 まずヒラリー・スワンクがあまりにミスキャストで(ブラック・ダリアの女性と似てないし)、主演のジョシュ・ハートネットは好きな俳優さんなんだけど、この役だとなんか子供ぽくて、しっくりしない…。スカーレット・ヨハンソンだけは艶かしくて美しくてフィルム・ノワール的にも映えてたのでよかった。やはりハードボイルドには金髪美女が出てこないとね、みたいな感じですけど。見るたびに存在感というか迫力が増してる。『ゴースト・ワールド』で初めて認知した時はまだ少女だったのに貫禄出てきてます。


 しかし『キャリー』とか『アンタッチャブル』とか『愛のメモリー』とか『ミッドナイトクロス』とか、ゾクゾクするくらい好きで、登場人物の感情の動きもぐっと心に食い込んできたのに、最近のデ・パルマの映画は何故か心に来ない…。『ファム・ファタール』は『ボディ・ダブル』を思い出させるような女優さん使って思い切り趣味に走っていてデ・パルマの世界にどっぶり入ればおもしろく見られる(この映画は嫌いじゃない)、『スネーク・アイズ』はいい役者さんばかりなのにみんながバカみたいに見えたし、話自体つまらなかった。今回はジョシュ・ハートネットも女性たちも軽く見えてしまって…。ハードボイルドな探偵小説では、探偵は悲しみを抱きながら最後に裏切った相手を葬るのに、そういう悲しみも拘泥も感じられない。


 ブラック・ダリア役の女優さんミア・カーシュナー(『24』以外では見たことない)は、モノクロ映像で動いているのを見るだけだけど、とても愛らしくて色っぽくて、この子があのむごたらしい死体になるのかと思うと、なんともいえないやるせなさと、言い方悪いのですが魅力を感じます。他のふたりよりデ・パルマが好みそうな女優さんだと思う。このミア・カーシュナーにもっと似た人を、ヒラリー・スワンクの役どころにあてればよかったのに。ヒラリー・スワンク自体はいい役者さんだと思うんだけど…(箔も一番あるし)。フィルム・ノワールに出てくる、悪女なんだけど、愛らしくて惹かれてしまう美女っていうカテゴリーには当てはまらない気がします。


 ていうか、そもそもスワンクがブラックダリアに似てない時点で物語が破綻してると思う。本物のブラックダリア事件のノンフィクションを書いた作家も、リーのように部屋の壁中ブラックダリア(ベティー)の写真で埋め尽くしていたとか。そのくらいブラックダリアの女性は人を魅了し狂わせるものがあった。その美しさだけでなく、死体の有様も含めて。生前の彼女のフィルムを見ていたバッキーもどんどんブラックダリアにハマっていく。だからこそ、ブラックダリアにそっくりなマデリン(スワンク)に発情して混乱していく。そこが肝なのに肝心のスワンクがブラックダリアに似てないから、バッキーが混乱する理由が伝わらない。そういう意味でスワンクはほんとにミスキャストだと思います。


 話も、見終わってももやもやとした疑問がいっぱい残るし、小さな世界ですべてがリンクしているのがかなり強引…。まあ探偵小説にはありがちですけどね。話の展開は理解できるんだけど、それでもいくつもの事件が交錯していて登場人物が多いのだから、キャラたちの行動が納得できるような心理描写をしてくれないと、混乱するだけ。主人公の行動の裏にある気持ちがさっぱり伝わってこない。張った伏線は放置して、一方でキャラの行動の裏にあった原因を後で科白でちょこちょこっと説明されても「はあ?」って思いしかない。とにかく映画は期待はずれでした。でもデ・パルマの映像の凝り方に★ひとつ上乗せ……しようと思ったけど、やめました。