中学・高校時代
今のようにネットがあるわけでもなく、コンピューターゲームもなく、ゲーセンもなく、クラブもなく、地方の都市に生まれ育った私の中学・高校時代の娯楽は、音楽と本と映画しかありませんでした。
映画館は数箇所あって、ほとんど名画座みたいな感じで古い映画では必ず2本立てでやっていて、土日はひとりで通いつめてました。古い映画館で冬は冷えて困った。それでも娯楽が少ない時代だったからか、映画館は満員の時が多くて、『風と共に去りぬ』とか『ベン・ハー』とか超大作長編映画(3時間から4時間)なんかを立ち見で見たこともありました。
両親のたまのデートも映画でした。父はエリザベス・テーラーを「完璧にシンメトリの顔。完璧の美」と言って憧れていた様子(エリザベス・テーラーの子供時代の美しさは本当にすごいです)。父に連れていってもらった邦画、松本清張原作野村芳太郎監督の『砂の器』は未だに日本映画の最高傑作のひとつだと思う。父と一緒に滂沱の涙を流して見てましたっけ(滂沱というよりほとんど号泣)。あと水上勉原作内田吐夢監督の『飢餓海峡』も傑作(三国連太郎と左幸子がすばらしかった)。
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父は私が18歳の時に急逝してしまったけれど、映画と推理小説(特に松本清張)が大好きで、「俺が背がもう少し高かったら三船みたいな映画俳優になってたぞ」とか大言壮語をぶちかます(もちろん冗談)、陽気な人でした。その大言壮語のお陰か三船敏郎を見るとつい父を思い出します。あそこまでハンサムではないけど似た系統ではあったかも。それはおいといて、私に推理小説や映画の楽しみを教えてくれたのは父なので、すごく感謝してます。もし生きていたらずっと一緒に映画見たかったな…。
私があまりに頻繁に映画に行くので、近所にたまたま映画館を経営してるおじさんがいて、私にたまにタダ券くれたほどです。嬉しかった。あの時代に見た映画に出ていた映画俳優は、本当に「スター」でした。リバイバルが多かったので、当然同時代ではないんだけれど(同時代はたぶんアメリカン・ニューシネマあたりでしょうか)。古い映画のきらびやかなスターたちを見るのが大好きでした。
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ふと思い出したこの映画(てかDVDが出てることに驚愕)。私が生まれるちょっと前制作された映画です。当代(1950年代)きっての美男俳優(日本で言うと長谷川一夫みたいな位置?)タイロン・パワーと、後にヒッチコック映画「めまい」とかでも有名になる美しい金髪女優キム・ノヴァクが主演で、第二次大戦前後に実在したピアニスト、エディ・デューチン(私はよく知らない)の生涯を描いた映画です。
ピアニストが主役の物語なので、映画はショパンを筆頭にいろいろな美しい音楽に溢れていました。まだ「映画音楽」というジャンルが確立されていない時代。たまたま題材がピアニストだったから音楽も大きな役割を果たしてましたが、映画音楽が独立して認められるようになるのは、フランス映画『男と女』以降。
この『愛情物語』という映画、物語はほとんど覚えてないけれど、今でもタイロン・パワーがオーケストラと共に難曲をピアノで弾きこなす最後のハイライトシーンだけははっきりと覚えています。私もピアノを幼稚園からやっていたので、どうしても鍵盤での指の動きを見てしまう。そこで圧倒されたのは、カメラが手元とタイロン・パワーの顔を別々に映す――要するに本物のピアニストをボディダブルに使うという、よくある手法を全く使っておらず、全編、タイロン・パワー自身が鍵盤を叩くのを映していて、手元をじーっと見ていても、確かにその曲通りに指が鍵盤を叩いてるのです。ものすごいハイスピードの演奏でも、乱れることなく正確にキイを指が叩いていた……。圧倒されました。
後で雑誌で調べたりしたら、当然音はタイロン・パワーではなくプロのピアニストのもの。でも、タイロン・パワーは一度もピアノを触ったことがないのに、この映画をやるために徹底的にピアノのレッスンをしたそうです。で、確かに、かなり難しい曲まで弾けるようになっている。実際、タイロン・パワーが出す音を聴けないから、指のタッチや、表現力や強弱がどれほどのものかはわかりませんが。鍵盤いっぱいを自在に動く指は確かに正確な音を押していた…それだけでもすごいです…。
ああ、ただただきれいな顔をしたスターじゃないんだな。すごい努力してるんだな…って、当時タイロン・パワーを尊敬しました。顔があまりに整い過ぎていて俳優さんとしては惹かれはしなかったけれど…。そして、神々しいほどのキム・ノヴァクにもうっとりしてました。
中学や高校ではもっぱら洋楽のロック・ポップスばかり聴いてましたけど、それとは別に好きな映画に流れていた曲を探しては買ってきてピアノでコピーしたりしてました。当時はミュージカル以外は「映画のサウンドトラック版」のアルバムなんてなかったので、映画で流れてたオリジナルじゃないレコードもたくさんありましたっけ。
そして名画座で出会ったたくさんのスターたちは、本当に見るだけで楽しかった。イタリア映画、フランス映画も多くかかっていて、ソフィア・ローレンとかカトリーヌ・ドヌーヴとか、アヌーク・エーメとか、エヴァ・ガードナーとか、ビビアン・リーとか、エリザベス・テーラーとか、グレタ・ガルボとか……。この世のものとは思えないくらい美しいスターたちが銀幕を飾っていました。
今の映画はリアリティ重視だし、大昔のハリウッドスターに持ったような幻想も持たない。映画としてはそっちのほうがずっといいとは思うけれど、たまにすごく古い洋画を見たくなります。ビリー・ワイルダーやエルンスト・ルビッチとかのコメディもいいし、ハンフリー・ボガードとローレン・バコールが出てるフィルム・ノワールとかもいいな…。
そういうとても古い映画もDVDで発売されたりするんですよね。こまめに探していれば古い映画もそろえられるかも。…以上、とてもとても昔の思い出でした。