小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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 『ディパーテッド』

★★★☆☆

ディパーテッド 特別版 (初回限定版) [DVD]

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 アカデミー賞にノミネートされるほどアメリカでは評価が高いスコセッシ監督作品『ディパーテッド』、見てきました。主役ふたりを盛り立てる脇役たちに、ジャック・ニコルソン(この人の場合は盛り立てるというより一番目立ってたけど)、マーク・ウォールバーグ(「ブギーナイツ」など出演作多数)、マーティン・シーン(「地獄の黙示録」、息子で俳優のエミリオ・エステベスがうりふたつで今はエステベスは監督業をしてるみたい。)、アレック・ボールドウィン(昔は臭いほど二枚目だったけどいい感じにおっさんになってきて好きになった)、ジェームズ・バッジ・デール(「24Ⅱ」でJ.バウアーの娘キムの恋人役でほとんどJ.バウアー2世みたいなキャラだった)など、渋い役者が配置されてるのが楽しかった。


 ……でも、いかんせん傑作だったオリジナル『インファナル・アフェア』を見ている分、どうしても評価が厳しくなってしまいます。オリジナルを知らずに見たら、もっとおもしろかったと思うし評価も高かったと思うんだけど、無意識に比べてしまう…。オリジナルに忠実なシーンとアレンジされたオリジナルシーンなどを楽しみつつ見たけれど、やはり物足りなさが残ってしまいました。これは『ディパーテッド』制作陣に対して失礼かもしれないけど。


 まず、ヤクザと警察、ふたつの組織に潜り込んで何年も活動するそれぞれのスパイ(鼠)たち。この主役のふたりの緊迫感や苦悩、そして長引くほど疲弊していく悲壮な精神状態が全く伝わってこないのと、ジャック・ニコルソンが正直演技が暑苦しくてうっとおしかったのがなんとも…。『恋愛小説家』とか『恋愛適齢期』みたいなこじんまりしたドラマではいい味出してて好きなんだけど。力み過ぎて「ああジャック・ニコルソンジャック・ニコルソン的な演技を力いっぱいしてるなあ」と思ってしまう。バットマンの悪役ノリというか…。


 それとディカプリオも力み過ぎのような…。やたらに眉間に皺寄せてリキんで声を上げる。スパイなのに顔にいろいろ出すぎ(オーバーアクト)。デビュー作(?)の『ボーイズ・ライフ』での子役の時は、あまりの演技のうまさに震撼したし、『ギルバート・グレイブ』とか見ても演技が下手じゃないのに、なんだか映画全体の演出がテンション高過ぎだからそう思ったのかしら…。テンポが早く刑事たちのダーティ・トークも雰囲気出してるんだけど…。良かったのはマーク・ウォールバーグ。この人はきもい役やらせると本当に上手。今回は髪型まできもかった(七三分けいやん)。口を開けばかなりえげつない下ネタばっかりで短気で嫌なキャラをやってたけど、なんか魅力的。


 トニー・レオンの長年の潜入に疲れた哀愁のある風情と同時に存在する飄々とした風情、暴力シーンが多い映画の中にほんのりと漂うユーモア、アンディ・ラウがいつも抱えている恐怖と緊迫感。善人への憧憬と同時に生まれる罪悪感。それを振り払いつつ生きる姿…。それから潜入捜査官を励まし続ける味のある温かい上司との心の繋がり、ちょっと頭が弱そうでかわいい顔したヤクザの子分とトニー・レオンの人情的からみ。香港ならではのきらきらした高層ビルが乱立する谷間の屋上シーンの美しさ…オリジナルで心に残ったこういうたくさんのものが、『ディパーテッド』では見ることができなかった…。記憶を消してまっさらな気持ちで見たかったなあ…。


以下ネタばれ


 どうしても比べてしまって申し訳ないんだけど。脚本にもちょっと不満。ヤクザ組織に潜入する捜査官(ディカプリオ)と、警察に潜入してるヤクザのスパイ(マット・デイモン)、彼らそれぞれの恋人役の女性キャラふたりを、『ディパーテッド』ではひとりに統一してしまい、どちらとも恋愛関係に陥る。それが伏線となってきれいにエンディングで収まるのなら、まあわからなくもないんだけど、あまり効果的ではなかったような…。ふたりのスパイが互いを知らずに互いの生活の中で恐怖を抱え、やがてじわじわと交錯していく様が緊迫感あっておもしろいのに。同じ女性と関係してるってシチュエーションはそのおもしろさを半減させちゃったようにも思えます。あとその恋人役の精神科医の女優さんが……なんかあまり個性を感じないタイプの女優さんで、かなーりがっかり。『インファナル・アフェア』の女医さんは本当に美しいし魅力的だったから……。ジェニファー・コネリーあたりがやってたら、『ディパーテッド』の印象が、私的にはかなりアップすると思う(単なる私の好み)。


 あと、オリジナルでは銃で撃たれてるのにトニー・レオン相手に車を運転しながらのんびりとおしゃべりしつつ死んでいった愛らしい子分とのシーンがないのががっかり…。トニーのことを慕いつつも「潜入捜査官なのか?」と疑いを持ち、それでも兄貴分に対する愛情をなくすことなく死んでいった子分。それを見てさらに苦悩するトニー。彼もまたそのちょっとぬけてる子分に兄貴分としての愛情を持っていた…。あれすごく心に残ったのにな…。あのエピソードがなくて淋しかった。


 もちろんオリジナルよりいいところもありました。マーク・ウォールバーグの存在とか。あと、最後の撃ち合いシーンは、めちゃくちゃ乾いていて余計な演出なく、冷酷にいきなりヘッドショットしてバタバタと仲間同士が倒れていく。あの虚無感がすごくよかった。ディカプリオの唐突な撃たれ方もいい(オリジナル見てない人にとってはかなり衝撃なシーンかも)。それとマット・デイモンが撃たれるまでのシーンもいい。自分の秘密を知ってる人間をすべて抹殺して逃げ切ったデイモンが、呑気に買い物袋を抱えつつ自分の部屋に入っていくと、証拠隠滅の完全防備のカッコしたウォールバーグがいる。それを見て、デイモンが一瞬にして自分の運命を悟り苦笑まじりに「…OK」とつぶやいて、さくっと撃たれる。あの演出はとてもいい。乾いてる。


 なのになのに…!!!!! デイモンが撃たれて倒れてからのエンディングシーン。カメラは死体から窓にパンしてズーム。ベランダの向こうにはマット・デイモンが密かに憧れた野心の象徴である議事堂…。あれで終わればいいのに……。テラスの手すりの上を本物の鼠がちょろちょろと走り出てくる…!? はあ?? ふたつの組織に潜り込んだスパイを映画の中で始終「鼠、鼠」と呼んでいたけれど、何も最後に本物の鼠出さなくても…。陳腐過ぎる…。それも手すりの真ん中に餌を置いてたみたいで、右から現れた鼠さん、一度立ち止まってもぐもぐ、で、それからまた手すりの左側に消えていく。で、映画終わり。もう、テラスの陰に調教師がいますよー、鼠、はい、テイクOK!みたいな雰囲気がバレバレで、いきなり興ざめでした。マット・デイモンのカッコいい死に様を一気に忘れちゃいましたよ……(涙)スコセッシ監督、いったい何を思って、あんな蛇足の鼠シーン入れたんでしょう…。議事堂の風景だけで十分虚無感出てたのになあ。


 ただ、マット・デイモンを最後に殺したのはよかった。オリジナルは無間地獄がテーマだから、悪(善になりたかった悪かな)が生き残り、そしてまた因果応報が続くってのがテーマだけれど。ハリウッドは文化も違うし、悪者が生き延びちゃいけないっていう倫理観というか宗教観もあるのかもしれないから、ああいうエンディングになったんだとは思うけど。でも、そういう陳腐な倫理観のためにデイモンを殺したというわけではなく、結局みんな死ぬことによってなんとも言えない虚脱感がじんわり残ってよかったと思います。デイモン生き残させてオリジナルの3作目みたいなの作られたら個人的に嫌だし…。だから最後はこれはこれで好き。


 ひとつ謎なのは、ディカプリオが女医さんに渡した黄色い封筒には何が入ってたんだろう…。すべてを説明する手紙や証拠品だとは思うけど…。あれとは別に盗聴された声を焼いたCDもディカプリオがデイモンに送ってる。あの女医さんに渡した封筒はどう処理されたのー??後で警察に提出されたとか? ウォールバーグに手渡された可能性は薄そうな気がするんだけど(女医さんとの接点がない)。


 で、最後の鼠と同じくらい苦笑しちゃったシーン。凶悪無慈悲なヤクザのボス、フランク(ジャック・ニコルソン)が追い詰められて死ぬシーンで着ていたシャツ…。思い切り胸に「IRISH」って……(笑) そんなにフランクはアイルランド人としてのプライドを大事にしてたんでしたっけ…。アイリッシュが多い警察官でもないのに…。ああ、アイリッシュ・マフィアのプライドなのか。でも…あえてあのTシャツを着せた意図がわからない…(悩)


 と、なんだかオリジナルが圧倒的に良くて大好きだったあまりに、『ディパーテッド』には普段より厳しい見方している自分がいて、正当な評価ができないことが悩ましく申し訳ない。偉そうにいろいろ書いてすみません。たぶん、オリジナルを知らないで見たら、かなりおもしろい映画だったかも…。たぶん…。