小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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『どろろ』

★★★★☆

どろろ ナビゲートDVD ~序章~

 「ホゲホゲタラタラホゲタラホイ♪」…と歌っても、年下の夫に通じないので愕然。大昔の話だけど『どろろ』がテレビアニメ化された時の主題歌です…。ああジェネレーション・ギャップ(涙) 40代の私はまさに手塚漫画で育った世代です。浦沢直樹さんと同世代。手塚っ子です。子供の時は父が毎月買ってきてくれる『鉄腕アトム』の単行本(B5版の雑誌サイズだけど)が楽しみで、必ずついてくるシールは大事に大事にしまってました。


 『ジャングル大帝』(ディズニー許すまじ)や『リボンの騎士』(サファイア大好き)みたいに一見楽しげな物語もあるけれど、手塚漫画はどれも、どこか暗くて怖い部分があった。鉄腕アトムでさえたまにホラーのような話がありました。そして『火の鳥』や『どろろ』や『ブラック・ジャック』や『きりひと讃歌』みたいな漫画ではストレートに人間の残虐さや罪深さが描かれていて、子供ながらぞっとしつつ読んでましたっけ。手塚漫画で深く知った歴史上の人物もあり(ヒットラーとかベートーベンとかブッダとか)。決して明るく楽しい漫画ではなかったけれど、子供時代の私が手塚漫画からもらったものは計り知れないものがあります。


 その中でも『どろろ』は、その発想自体が斬新でグロテスクで異彩を放っていたような気がします。今の時代ではポリティカリー・コレクトに思い切り抵触するような危ないテーマも織り込まれていた。だから一時発禁になってたような…。で、危ないセリフは現代用に改変されて単行本が再発行されたような記憶があります。『どろろ』に限らずこういうのはすごく残念。その時代に使われていた言葉として残しておいてほしい。昔の邦画は普通に差別用語出てくるから、そういうのがどんどん改変されるのは文化を改ざんしてるみたいで悲しい。白土三平の『カムイ伝』みたいな名作も現代ではアウト。息苦しいです。文化は文化として政治的正しさから除外して保存してほしいなって思う。


 『どろろ百鬼丸は孤独で暗くて、因果応報みたいなどろどろした背景があり、話は残酷でグロテスク。身体の大部分が欠損したまま魑魅魍魎と戦い続ける旅の中で、苦しみながら自分の肉体を取り戻していく。そのどろどろした暗い漫画を、かなり昔とはいえテレビアニメに持っていけたのは「どろろ」という実は女の子だけど男の子として振る舞い百鬼丸にくっついて回るかわいい子供キャラの存在があったからじゃないかな、って勝手に思ってました。テレビアニメの内容はすっかり忘れているんだけども。


 だから、『どろろ』が実写で映画化され、どろろ役が柴咲コウという情報を聞いた途端、「ええ…」という違和感しかなかった。どろろはもっと子供であるべき…と。『デビルマン』や『キャシャーン』みたいになるんだろうか…という危惧(『キャシャーン』は映像だけはすごくきれいで悪くなかったけど)も生まれて…。それでもやっぱり見ておかなくちゃ、という気持ちで見ました。


 原作を知ってて映画化されたものを見る時、どうしても「○○はこうあるべき」「自分の○○はこんなんじゃない」という気持ちが出てしまう。そういう気持ちは素直に映画単体を楽しむことができない分、決していいことじゃないと思うのだけれど…。なにせ知ってるものだからいかんともしがたい。『ディパーテッド』みたいなリメイクでさえオリジナル崇拝の気持ちが邪魔してしまって素直に見れなかった。『どろろ』なんて、絶対つまんないんだろうな…って最初から思ってました。


 …でも、映画を見始まってしばらくしたら、そういう違和感はいつの間にか消滅し、映画は映画という別物として見ることができました。柴咲コウが出てきて太鼓叩いて歌い出した時は一瞬どうしようかと焦ったけれど、それ以外は柴咲コウの愛らしさにすっかり魅了されてました。最後のほうで顔をくしゃくしゃにして泣いた時なんて、そのいじらしさにもらい泣きしてたくらい。妻夫木聡百鬼丸はちょっと普通過ぎて物足りなかったけど…。もっと陰りが欲しかった。


 映画としてもテンポが良く、カメラワークも悪くない。殺陣は中国のアクション指導スタッフが入ったお陰かスピーディ。若い時はどうしても好きになれなかった中井貴一がいい感じに老けていて醐醍景光役が似合ってた。設定が架空世界で、思い切り違う世界観にしてたのもよかったのかな。その設定で、ああ、これは漫画の『どろろ』を忘れて見ていいんだなって思えた。別の物語として映画を見る気持ちになれた。最初にネガティブな予想をしていたからなのか、意外にもおもしろく、映画にすっかり引き込まれ、楽しく見ました。邦画にしたらかなりいい出来だと思う。だから★多めです。原作にこだわる人からは「ひどい映画」って評価も出てきそうだけど。私は好き。


 ただ…CGだけは予算の少なさなのかちょっとがっかりでした…。冒頭の蜘蛛とカニが合体したような妖怪はけっこう良かったのに、その後どんどんしょぼくなっていって、途中は「ウルトラマン」か「仮面ライダー」の特撮ものを見てる気分になったり。大きな青虫の妖怪なんて、村人たちとの格闘シーンではCGじゃなくて布でしっかり作られた着ぐるみだったような…。


 『どろろ』本来の暗さや悲しみはなかったけれど、なんだかいろいろな要素が組み込まれていて、それを見るのも楽しかった。百鬼丸を拾って育ててくれる養父との話なんて、最初は『ブラック・ジャック』だし、エレキテルが出てきて水槽に入ってるところなんて『フランケンシュタイン』そのもの。醐醍景光の城は漫画『20世紀少年』に出てくる関所みたいな異様なデザイン。何故かサイコメトリングまで出てくるし。本当に不思議な世界がそこにあって、『どろろ』とは違っていてもそれはそれでいいじゃない、おもしろいじゃん、て思えた。あと柴咲コウの膝小僧と泣き顔に惚れました。かわいいから「どろろ」じゃないけど許す!みたいな感じ(笑)


 キャストは原田美枝子だけは浮いてるように見えました。黒沢映画で同じような役柄でお歯黒の怖い女の人やってたから、どうしてもそれを思い出してしまい、原田美枝子だけが日本の時代劇の人になっていて妙にリアルだったからかなあ。


 とにかく予想外にいい映画でした。その後に『墨攻』見るとちょっと悲しくなりますけどね。どうしても予算の少なさが見えてしまう邦画…。でも、予算少なくたってアイディアと物語でカヴァーして傑作になる映画は山とあるわけだし(『SAW』とか『CUBE』とか)。去年は邦画の売り上げが洋画を超えたとも聞くし、これからの邦画に期待。『黄泉がえり』(死んだ愛する者が一瞬だけ実体で戻ってくるって設定だけでも個人的に揺さぶられて泣ける)とか、『ヒノキオ』(ジュンかわいいよジュン!)とか、大好きです。