小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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「魔術師マーリン」


「魔術師マーリン」 ★★★★

 子供向けのファンタジーです。主人公は、世界でも名だたる魔法使いとして書物にも残されている「マーリン」。マーリンは、キャメロットアーサー王に仕えたという。

 このドラマでは、マーリンはおじいさんの魔法使いではなく、若い王子アーサーと同い年くらいの青年。たまたたま生まれつき魔法を使うことができた少年がキャメロットにやってきて、彼の「運命」であるアーサー王と出会うところから始まります。

 子供向けなので、とにかく英語がきれいです。英語の勉強の教材になりそうなくらい誰もがきれいでわかりやすい英語を話すので、字幕要らないくらい。汚い言葉を一切使わない。そして映像でも酷いシーンもエロいシーンもなく、安心して見られる。子供の気持ちでマーリンとアーサー王の成長を見ることができます。とても純な気持ちで物語に入り込める。

 子供向けだからこそ、配役への配慮もあり。ポリティカリー・コレクトネス(政治的正しさ)として、アーサーの王の恋人グウェンは黒人の女性です。英国で生まれ育った白人以外の子どもたちが、王子様やお姫様が白人ばかりのお伽噺を読んでいたら夢見ることができなくなる。ディズニーもいつの頃からか、その点をかなり気を遣うようになりました。行き過ぎたポリティカリー・コレクトネス(たとえば、アファーマティブ・アクション)は社会的な弊害も生み出しますが、こういうお伽話ではこういう配慮はとても良いことだなあと思いました。

 おもしろいのは、このドラマのキャメロットは魔法縛りがあること。魔法だらけのお話なんだけど、キャメロットでは魔法禁止。良いことのためであっても魔法を使うことがわかったら即刻打ち首。その中でマーリンは自分の魔法の才能を隠しつつアーサー王子に仕える。しかし、アーサー王子や、その父ウーサー王を狙うのはことごとく強力な魔法を駆使してくるので、マーリンは隠れながらもそれと戦うことになります。

 最初は子供向けなので楽しく物語を見ていたのですが、シーズンを重ねるたびに、どんどん暗くなってくる…。そして最後のシーズンは、非常に息苦しく 裏切りの嵐でダーク。哀しみが多くなってきます。子供のような気持ちで見ていた私は、まんまとはまり込み、まんまと物語に翻弄され、どっぷりとマーリンに感情移入をして見ていました…。


 

       ★★★★★  以下  ネタバレ注意  ★★★★★





 とにかくマーリンがかわいいです。いじらしいです。魔法を駆使しつつアーサー王子を助けます。でも、剣の達人ではあるけれど、性格は単純思考なアーサーはマーリンの苦悩も知らず、しかし良い友として温かく扱う。イギリス人らしい、悪口を言い合い、じゃれあう二人はとても愛らしい。

 でも、でも。最終シーズンの終わり方はひどいです……。長い長い時間、ふたりの仲良さ、マーリンの苦悩を見てきた果てに、あの終わり方って……(涙)

 最初のシーズンで、キャメロットに捕らわれていた最後のドラゴン(声がジョン・ハート)が、マーリンに言った言葉は、「お前は、アーサーに仕え、彼が王となってアビニヨンを統一するのを助けるのだ、それがお前の定め(デスティニー)」だと言います。 

 マーリンはドラゴン使いでもあり、危機に瀕するとドラゴンを呼ぶことができます。ドラゴンの言葉は重く、彼は素直にドラゴンの言葉を信じ、自分の宿命としてアーサーを助けることに邁進することになります。決して認められることもなく、魔法を使って王子を助けても、知られれば打ち首。命をかけてアーサーを守る。呑気なアーサーはマーリンを虚弱な従者と見做し、友達として信頼はしていても、決してマーリンに敬意や謝意は持たない。

 それでもマーリンがアーサーを助けるのは、宿命だと思うだけではなく、アーサーに仕えていくうちに、アーサーへの深い愛情を持つようになるからこそ。愛情が生まれたのですね。魔法を禁止する厳しい王ウーサーの後にアーサーが王となり、いつか魔法を使える自由な世界が来ることを信じて、健気なほどにがんばります。そんなマーリンに感情移入してしまうのは自然。見ている者はマーリンが魔法使いであることをアーサーに伝えて、アーサーと共にキャメロットの平和を見ることができると思ってドラマを見続けます(私はそう思って楽しみにしていました)。

 水晶の祠でマーリンが哀しい未来を見てしまった時も、師匠のガイアスもドラゴンも、「未来は変えることができる」と言う。運命もまた変えることができるのだと、マーリンの父もそう言ってマーリンを励ます。そうだそうだと、私もそう思いながらマーリンをみつめていました。

 なのに!!!!!!!

 最後の戦いでアーサーが刺されてしまい、死にそうになった時…。やっとマーリンが涙ながらに魔法使いだと告白したら、一瞬嫌悪感と騙された怒りを表すアーサー。それでもアーサーの命を助けようと必至に尽くすマーリン。無償の愛とはこれでしょう。死にそうなアーサーを唯つ救える場所アバロンに連れていくために、アーサーに疎んじられつつも絶対に諦めない。アーサーも徐々にマーリンがどれだけアーサーに尽くしてきたか理解する。魔法への嫌悪がやっと消える…。

 このエピは、アーサーの愛する妻なんてそっちのけで、マーリンとアーサーの愛情物語です。アーサーを全身全霊で愛したのは、妻よりマーリンにしか見えない。このふたりの間にはグウェンは入り込めないほどの深い愛情。だから瀕死のアーサーが最後は助かってふたりで新しいキャメロットを生きるのかと思っていたのに……。

 最終シーズンの最終エピ。なんとか王になったアーサー、なんで殺すのーーーーーーー!!!!???

 アーサーが死にそうになって、泣きながらドラゴンを呼ぶマーリン。生き延びるための唯つの希望がアバロンへ行くこと。ドラゴンはふたりをアバロンに運ぶのですが……。やっぱりアーサー死んじゃう……。半狂乱になるマーリンにドラゴンが言う言葉。

 「残念だが手遅れだ。それがアーサーの天命だ。受け止めよ」って……。

 言ってること違うじゃん!!! 最初に、運命は変えられるって言ったでしょうが!!ドラゴンよ。マーリンに「お前の運命は、アーサー王に仕え、世界が統一されるのを見るのだ」って言ったじゃないかああああああ。

 ここで私は怒りまくりですよ。
 アーサーの亡骸を抱きしめながら絶叫するマーリンの気持ちがあまりにつらいのに、あっさり死んだアーサーにびっくりして、一緒に泣くこともできない。

 その上、ドラゴン「アーサーは永遠の王である。再び復活する日が来るだろう」って飛び立っていく。

 そ、そうなの? じゃあ、いつか、アーサーが復活するのね!? その時ふたりはまた会えるのね??;;

と思ったら、最後のカット。トラックが走りすぎ、アバロンが見える。そこを歩くのは現代の格好をした年老いたマーリン。え? ええええええー??????

 アーサー王、復活しなかったのね、それどころか、その後、マーリンどうしてたのよ。ひとりで孤独に長い長い人生を生きてきたの?? そんな………。

 私の最後の感想は、「ドラゴンのうそつき!!涙」でした(笑)  まんま子供の感想です…。

 だって、ドラマ見ていたら、本当に一途なマーリンの愛情にほだされますもん。マーリンにとってアーサーは愛しい人。本当に愛していたのに…。

 アーサーが助かって、キャメロットでは魔法が許され、マーリンはアーサーの輝かしい未来にいつまでも付き添う……、こういうエンディングではだめなんですか?;; マーリンがかわいそうでかわいそうで…。運命とか嘘つき。

 だめだ、単なる子供の感想になっています;

 それと、これはアーサー王の話ではないですね。アーサーはマーリンがいなかったら、単なる人の良い筋肉バカですもん。岩に封印されたドラゴンの剣(私はエクスカリバーと呼び続けましたがドラマでは呼ばない)を抜く瞬間さえ、後ろでマーリンが魔法使ってたから剣が抜けた。それじゃ伝説の王じゃないじゃん…。アーサー王の偉大さは、このドラマには描かれていません。ただただ、マーリンが愛する、呑気で優しくて勇敢な王というだけ。まあ、ドラマのタイトル通り、マーリンが主人公ですから、それでいいのかもしれないけど…。なんか、もう少しアーサー王たるところも出してほしかったなあと思います。

 あまりに悲しかったので、今日からまたシーズン1から見返しています。
 シーズンが深まるたびに、裏切りばかりでどんどん暗くなるので、コメディタッチがあって微笑ましいシーズン1を見るとホッとします。そして、あらためて、このドラマは、アーサーとマーリンの愛の物語なんだと思いました。