小室みつ子 / 映画とかドラマとか戯言など

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 『グッドナイト&グッドラック』

★★★☆☆

グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]

グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]

 最近もっぱらレンタルとケーブルでちょっと前の映画を見ています。新作見に行きたいんだけど、夫が忙しいのでなかなか行けません(映画館に行くのは夫と一緒って決まってる)。


 この映画、とても見たかったのですよー。ジョージ・クルーニー監督作品。私が見たかったのはデビッド・ストラザーン。この人、名脇役で数え切れないほど映画に出ているけれど、本当に誠実そうな顔つきで理解ある優しい夫とかやらせるととても素敵で惚れてしまいます。メガネかけて出ることが多く、そこらへんと寡黙な役が多いからか、とても知的な雰囲気を持っている。今回は主役ということでとても楽しみでした。


 映画はクルーニー監督のリベラル精神が確固とした基本となり、誠実に、丁寧に作られてます。時代考証もかなり念入りだし、物憂げなジャズがテレビ制作者たちの苦悩を癒すように流れ、スタイリッシュなモノクロ映像は構図から雰囲気から高級感いっぱい。映画手法的にもかなりのレベルだし、アートぽくおしゃれ。出演者たちも好きな人ばかりで目が嬉しい。


 映画的にはかなり出来がいい作品だと思うのですが、ちょっと★が少なめなのは、演出がすべてにがんばり過ぎてカッコいいんだけどかっちり収まりすぎというか…。硬い感じがしてしまうのです。ロバート・レッドフォードが監督した作品に通じるものがある。『リバー・ランズ・スルー・イット』や『クイズショウ』とか、非常にいい映画だと思うのだけど、あまりに生真面目でふっと和やかになるユーモアが一切なく全編がシリアス過ぎて、その言わんとする主張には賛同するものの、映画として楽しいって気持ちにさせてくれないところがある。クルーニー監督もこの映画作るのに社会派作品てのを意識して力入り過ぎてしまったような印象です。思うに俳優さんが監督やると肩に力が入ってしまうことが多いのでは。ショーン・ペンの『インディアン・ランナー』そうだった。みんなガチガチにうまい映画を作ろうって気持ちが出てる。


 それと物語にあまり引き込まれなかったのもあります。ストラザーン演じる実在のキャスターと制作者が、コミュニストの烙印を押されて業界から締め出されるかもしれない、またはCBSがこの番組のせいで放送ライセンスを失うかもしれないという恐怖を持ちつつも、信念を通してマッカーシー批判番組を放送する――これはカッコいいことだとは思うのだけれど…。マッカーシー上院議員によるレッド・パージはすでに歴史的に大いなる間違いと認識されてるものだし、それによって映画界でも多くの才能が苦しみ、いなくなったりしたことは、すでに本や映画や歴史で何度も語られている事実。


 だから一貫して主人公たち側の人たちは全く持って正しいというスタンスが最初から守られてる。正しい人たちが正しい行いを勇気を持って行い、やがてマッカーシーは失脚する。それはいいのだけれど、みんなが勇気があって正しすぎて、レッド・パージ時代に蔓延していた恐怖に負けてしまった人たちにはほとんど目を向けていないところが気になりました。クルーニーもそうだけれど、ティム・ロビンススーザン・サランドン夫妻とか、エド・ハリスとか、ハリウッドの中でも少し過激寄りのリベラルな人たちは、赤狩り時代に共産主義者のレッテルを貼られて仕事や世間からの信頼すべてを失う恐怖に負けて、仲間を売った弱い人たちに対して未だに許さない気持ちを堅持しているようです。


 それは悪いことではないのだけれど…。自分かわいさで仲間を売った人たちは恥ずべきことをしたし、それによって仕事を絶たれ消えていった人たちの悲しみは大きい。ただ…ふと思うことは、とてもリベラルな人ほど、潔癖で寛容性が少なく、まったきない正義を信じ、間違った人たち、一度罪を犯してしまった人たちをとことん糾弾する傾向が強いように感じるのです。たとえば、赤狩り時代に映画仲間のリリアン・ヘルマンダシール・ハメットを売ってしまった偉大なる映画監督エリア・カザンが1998年にアカデミー賞名誉賞を受けて人前に出た時、そういうリベラルな俳優の何人かは拍手も起立も拒否し腕組みをしてエリア・カザンを睨みつけていました。


 赤狩りの時代からすでに50年近く経って、エリア・カザンもかなり老齢(実際5年後に死去)。彼自身も自分がアカデミー賞の舞台で温かく迎えられるわけではないことを知っていたでしょう。スピーチの最後に「…私は自分が歓迎されていないのは知っている。そろそろ消えるべき時のようだ」みたいなことを気弱に言っていたくらいだから…。私はエリア・カザンが普段どんな人か知らない。彼自身が50年の間、どういう気持ちで過ごしてきたか、共産主義者ではない仲間を売った罪でどれだけ自責の念に苛まれていたか、近しい他人にもわからないこと。


 人はすべてにおいて完璧なわけではない。確かに彼は偉大な映画人や文化人から仕事を奪うという償いようもない大きな間違いを犯してしまったけれど、永遠に残る傑作をいくつも世に残した偉大な映画監督に、政治的な責任を50年経っても要求し、許すということをせず、せめてアカデミー賞の会場では彼の功績を素直に称える、ということさえできないリベラルな人たちに少しだけ疑問を持った覚えがあります。あの時代に恐怖と戦い決して自分を曲げなかった人たちはもちろん偉大。でも裏切られた人たちは当然ながら、友人を裏切ってしまった人たちもまた、マッカーシーによる恐怖政治の犠牲者じゃないのかな…。


 …映画の話と離れちゃってますが、何を言いたいかというと、リベラルな人たちがそういった場面(過去に明らかに悪いことをした人に対しての態度)や、たとえばブッシュ批判などをする時にある種の危うさみたいなものを感じるってことです。「自分たちは全くもって正しい。敵は愚かで全くもって間違っている」という迷いのない正義感が強すぎて、「敵とみなす人たち」に対してへの1ミリもの情も見せることもなく、潔癖過ぎるあまりに不寛容になり、いつまでも許さず糾弾だけする傾向があるように思われてならないのです。もちろんリベラルが嫌いなわけではなく私もリベラルでありたいとは思う。アメリカだけではなく大方の国の左派や左翼は愛国心はとても深い。国を愛してるからこそより良い国を作りたいという意思が基本にある。だから国に対して敵である他者と対峙する時は民主党共和党もアメリカ国家のために動く。そこが、どこかの国とは違うところ。


 ただ、そういうリベラル側の人たちの、ちょっと間違えると独善性にも繋がる正義感と自信が、この映画にも感じられてしまって、映画の主題である「あの時代にアメリカに蔓延していた恐怖と対峙し戦った人たちへの敬意の念」はもちろん私も同意なんだけれど、物語自体にはのめり込めなかったかな…。というか物語にあまり起伏がなく、正しい人たちが立ち上がり、間違った愚かな人が最後に失脚した…。という歴史をなぞっただけで終わってる気がしたのでした。

 以下ネタバレ



 でも、正しい行動をした勇気ある報道人たちも、結果的には社内のコマーシャリズムに敗退するのですが…。これを入れたことはフェアであるしショックであるし好きな部分です。ただ、私は経営者である会長の言葉がいちいち頷けたかな。「我々は視聴者が求めるものを提供する。正直クイズ番組のほうが視聴率もスポンサーも取れる。君たちの番組に対して外からの圧力があったが、私は君たちの製作内容には一切口を出していないし、外部の人間にはいつも「NO」と言ってきた」…みたいな言葉。彼らの意思も尊重して庇い、経営者の立場や会社すべての多くの従業員の行く末も忘れない会長、カッコいいなあ…と思った。


 それと、「報道は中立であるべきだが時にそれを逸脱しても仕方がない」と主人公が言うところ。それ自体は私も同意するんだけれど、結局その後に放送されたマッカーシー上院議員に関しての番組では、中立かそうではないかというレベルのものではなく、明らかに放送の中で対象をジャッジし、彼が考える理想を語っていました。上司が「報道はジャッジするものではなく事実を伝えるもの」と言っていたけれど、私はそっちのほうが理解できる。


 でも実際はメディアは報道する時に完璧に中立にはなれないし、現実はメディアは報道する時にすでに誰かをジャッジし、断罪することも多々あります。それをこの映画のキャスターも結果的に犯している。あの特殊な赤狩り時代にはそれはとても勇気のあることだし結果的に正しかったけれど、現在においても報道メディアは報道する時にすでに誰かをジャッジし断罪してることが多いので、感動より「これがマッカーシーじゃなく現在なら…」という危うさを感じてしまいました。


 最後のキャスターのパーティでの演説の内容も、個人的に少し引っかかるものがあった。「ゴールデン・タイムにクイズショウなどのエンタテイメント番組の代わりに、我々が作ってきた報道番組が流れるようになって、みんながそれを真剣に見るようになるべきで、それがテレビの使命」みたいなことを言っていたので、ちょっと驚きました(正確な内容覚えてないので間違ってたらご指摘ください)。確かに世の中の人たちが報道番組を一番熱心に見るのは理想だけれども…。テレビは娯楽も大切だと思う……。そういう演説が最後にあって、なんていうか、それまで赤狩りの恐怖と戦ってきた反骨精神には感心するけれど、なんか報道至上主義にも感じて、うーん、そうかなあ…なんて思って見ている自分がいました。


 とにかく、生真面目でまっとうな映画です。映像は巧みでおしゃれですばらしい。いや、めちゃくちゃカッコいいです。映像見てるだけでもうっとりする。ただただ、物語として、歴史をなぞる以上に見ている側の心を鷲掴みしてくれるような展開があったらなあって思いました。最後まできっちり真面目に作られていて、正直ちょっと退屈なところもありました。